2022 年 1 月 25 日 [火]

メディア業界のエコシステム構築へ 日刊スポーツPRESSとHOUSEIが目指す「共通化」

対談
  VOl.
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日刊スポーツとHOUSEIが共同開発した新聞組版システムが今年初めより、ついにクラウド化されました。過去に新聞協会賞(技術部門)も受賞している同システムは、業界の大幅なコストカット、DX推進の一助になっており、様々な新聞社で採用されています。今回は組版システムの開発/運行社である日刊スポーツPRESSの営業兼システム担当・山中俊幸様と弊社代表の管祥紅が業界の課題、同システムが業界にもたらしたインパクトについて振り返るとともに、ビジネスモデル変革のカギを握る「共通化」について論じました。 ‍

メディア業界のエコシステム構築へ 日刊スポーツPRESSとHOUSEIが目指す「共通化」

GUEST

話し手

山中俊幸

日刊スポーツPRESS システム担当

HOST

聞き手

管 祥紅

HOUSEI株式会社 代表取締役社長

GUEST

話し手

山中俊幸

日刊スポーツPRESS システム担当

Client

お客様

管 祥紅

日刊スポーツ×HOUSEIの組版システムが業界に与えたインパクト

 日刊さんと弊社が一緒に共同開発した組版システムは、当時、東京と大阪で別々に所有していた組版システムを統合させることで、紙面共有と制作分担、障害や災害時の連携、システム導入、保守コストを削減することが目的でした。当時は画期的なシステムで、実際に新聞協会賞を受賞するという名誉を得たわけですが、そもそもなぜ日刊さんは弊社と組版システムを共同開発しようとしたのでしょうか?

山中 あれはHOUSEIさんが日本法人を立ち上げたばかりの頃――1998年ぐらいのことですよね。ある展示会で管社長から「新聞社向けのシステムを作りたい」と相談を持ち掛けられ、御社の高い技術と、弊社の知見を組み合わせれば、完成度の高い組版システムが作れるのではないか、そんな話し合いをしたのがすべての始まりでした。

当時の日本の新聞組版システムは大手ITベンダー数社による寡占で市場競争もなく、各社似たようなシステムを、似たような価格で使わざるを得ない状況でした。また、当時はソフトウェアとハードウェアのセット販売が一般的で、契約更新にも数十億円というものすごい費用がかかったのです。

 ソフト以上にハードに莫大なコストをかけていたということですね

山中 そうです。ユーザーも自社要件をまとめる力量が落ちていた上に、発注した後はベンダーに実質モノが言えない状況で、「果たしてこのままでいいのだろうか?」と常日頃から疑問を抱いていました。そんな矢先にソフトウェアに特化していたHOUSEIさんと出会ったのです。もちろん、最初は心配しましたよ。HOUSEIさんのことはよく知らないし、当時の新聞社にとって組版システムは基幹システムですから、「そんな会社に基幹システムを任せられるのか?」「怖くて使えないよ」などと社内の抵抗もものすごく強くて。けれども、私は自社のシステムコストを下げたいという気持ちと、ベンダー数社による寡占状態をどうにかしなければ、業界に風穴を開けなければ、どの道先がないという思いを持っていました。だから、まずはお互い持ち出しで開発をしてみようということでプロジェクトをスタートさせました。同様のシステム開発だったら「金物」込みで数十億円かかると言われていた時代に、それこそ4分の1以下のコストで(笑)。HOUSEIさんはその持ち出しで痛みを感じながらも粘り強く開発とブラッシュアップを継続し、我々は現場ユーザーの観点から可能な限りのご支援を続ける、そんな時期が2007年ぐらいまで続きました。

 当時の山中さんは常に理想を追い求めていましたね。業界では信じられないことにチャレンジしていた。僕らも一緒に考え、議論を繰り返し、日本と中国の技術力を結集させて対応していました。山中さんから夜中に呼び出されることもよくありましたね(笑)。

山中 失敗したら会社にいられないという危機感がありましたから(笑)。御社の技術力についてはまったく心配していなかったのですが、いかんせん当時は日本の新聞のことをよく理解されていなかった。ですからプロジェクト始動にあたり、ブリッジSEを育成するため、まずは北京大学の日本語学科を卒業した御社の優秀な社員さんに日本の新聞のことを徹底的に教え込みました。それこそ弊社の社員よりも新聞について詳しくなるぐらい(笑)。そして2年かけて言葉の壁を越え、1600ページ超の設計書を作り、2010年に新聞製作に必要な機能をすべて兼ね備えた画期的なシステムが完成したんです。

 そのシステムが新聞協会賞受賞ですね。オフショア開発をうまく活用して大幅なコストダウンを実現しただけでなく、しかも先進性のあるシステムだと。スポーツ新聞で協会賞を受賞するのは初の快挙でした。

山中 HOUSEIさんが最小限のリソースでコストを抑えてワンパッケージのシステムを作ってくれたから、我々はHOUSEIさんとだけやりとりすればいいようになったのです。昔は数社のシステムが並行して稼働しているマルチベンダー体制をとっていましたから。例えば素材管理はA社、組版はB社、出力はC社、広告関連はD社といったように。加えてHOUSEIさんの作ったシステムはとにかくバグが少なくて。ワンパッケージでバグが少ないということは、ユーザーシステム部門の負担を大きく軽減することに貢献しました。本当に1人2人のローテーション要員で日々の運行業務ができてしまう。同じ機能を開発するにしても、日本のベンダーと比較して一桁少ない要員数で作ってしまいますよね。個々の開発スキルが非常に高い水準にあるんだな、と感じました。2010年の新聞協会賞の時も「これだけの水準の組版端末は今後10年出てこないだろう」とお褒めの言葉も頂きました。

新聞業界に求められる「経営に資する視点」と「共通化」

 日本の新聞業界を取り巻く環境はこれまでとても恵まれていました。数十ページのボリュームで価格は百数十円。部数も多く、販売収入や広告収入も良かった。アメリカの場合、平日版だと5、60セント、数百ページのボリュームがある日曜版でも1.5ドル程度です。部数も日本の新聞と比べると圧倒的に少ない。ただ、そうした状況は現在変わりつつあります。ネットメディアの勃興やライフスタイルの変化によって購読者は年々減少しており、日本でも新聞の優位性は失われつつあります。各社コストカットは進めているようですが、よりドラスティックな改革が求められている状況です。私としては今後業界としてシステムを含め「共通化」が生き残るために必要だと考えているのです。

紙面作成イメージ

山中 言ってしまえば、日本の新聞社はどこも意外と保守的なのかもしれません。契約更新に数十億円かかる独自のシステムを長い間使い続けていたぐらいですから。つまり、それだけ余裕があった時代でした。ところが現在はコンテンツを発信することはマスコミの専売特許ではなくなり、ポータルサイトが力をつけたことも影響して、若い世代を中心に紙への需要は急速に失われています。業界では組版システムよりもコンテンツ作りや、電子版などデジタルに対応した素材管理などに費用を投じる必要性のほうが高まっているわけです。新聞は同じ製品を大量に生産するという意味で、工業製品とも言えます。もちろん主義・主張やコンテンツなど「中身」の違いこそあれど、製品としての「外見」は、どこも似たようものじゃないですか? であるならば「独自の組版システム」を求める必要なんて実はないのです。

 求められているのはシステムそのものの独自性ではなく、安くて効率的に作業ができるシステムということですね。

山中 そうです。そこに「共通化」の重要性が生まれると思っています。ひとつのシステムを1社で使うよりも、10社で使う方が断然安くなるわけですから。ただそうは言っても、現実的に「共通化」にはいまだ大きな課題があります。仮に良いシステムができたとしても、「まったく同じシステム」をみんなが採用しますか?という話です。参加するユーザーさんそれぞれが「うちのシステムはこうでなきゃ駄目」「うちの環境はこうしてほしい」と次々と要望を出した結果、事実上共通のシステムではなくなってしまい、イニシャル費用のみならず、運行要員を含めたランニング費用がかさむようになってしまうのです。

 こだわりを、どこまでを大事にして、どこを思い切って切るのかという判断が求められますね。

山中 ですから、我々はHOUSEIさんと共同開発した現在のシステムサービスをワンパッケージにし、できればカスタマイズをしないで各社と共用していけないかという道を模索し始めています。函館新聞さんや陸奥新報さん、日本農業新聞さんなど、すでに10社近くが日刊スポーツと全く同じシステムを採用してくれているのです。

 新聞業界のマルチテナントですね。僕は山中さんから『月刊AKB48グループ新聞』を作っていると聞いたときは驚いたのです。共同で開発したシステムを特に変更も加えず使用し、発行までできてしまったのだから。

山中 我々のシステムは組版システムと謳っていますが、操作性と表現の自由度が本当に高い。新聞だけでなく、雑誌も書籍も作れる。組版システムなのにDTPにも引けを取らない、本当に稀有なシステムだと思います。リモートでも遅延や不具合なく作業できてしまいますし。

 経営的に見ると、こうした先進性のあるシステムを積極的に採用し、業界として「共通化」を図っていかないといけないという雰囲気は、ある程度醸成されてきたと思うのです。ただ、日本企業のDXが遅々として進まない原因にも関係していると思うのですが、企業の文化や意識の改革が進まないと、「共通化」を阻むことになってしまいますね。実際、山中さんも先ほど言っていましたが、うちと組んでシステム開発する際は社内の「抵抗勢力」をどのように説得されたのですか?  

山中 経営者や上司・部下に恵まれ、プロジェクトを後押ししてくれたこともありましたので「抵抗勢力」というほどのことはありませんでしたが、実は私がやろうとしていることと「抵抗勢力」がやろうとしていることには、違いはないのです。目指すべきゴールは同じ。「アプローチを変えていきませんか?」というだけの話ですので。多くの人はアプローチにこだわり過ぎるのです。機能や仕組みを変えても結果同じものができるのであれば、やり方が違ってもいいじゃないかと。たまにしか使わない機能は多少不便になってもいいけど、一方でよく使う機能はより便利にしていきましょうと、そういう風に意識が少しずつ変わるよう現場出身者として編集やシステムの現場を説得していきました。

 本当の意味で「経営に資するシステムとは何なのか」を考えてもらうということですね。「共通化」していくことに対し、経営的なインパクトもないのに現場がこだわりを持って抵抗すると経営が介入できないというか、判断ができない。判断できたとしても反発を買って実行できないというケースは本当に多いですよね。山中さんと話していて感じたのは、要するに新聞業界の「共通化」はゼロかイチかという思考で臨めるものではなく、できるところから段階的に導入し、業界全体で「共通化」を少しずつ進めていく。そして行く行くは業界全体のコストを引き下げるというように、辛抱強く取り組むことが必要ですね。

「共通化」へ向け日刊スポーツとHOUSEIが協力できること

 新聞業界の「共通化」にはまだまだ課題が多いことがわかりましたが、それでは今後我々が協力してできること、現段階でできることは一体何なのだろうかということになると思います。その点について山中さんはどうお考えですか?

山中 ひとつのシステムで全国の新聞社を網羅できれば、それはそれで理想ではあるけれども、現時点では難しい。運用の仕方や周辺システムも異なりますから。特に大手新聞社はこだわりが強いし、どうしてもそこに手を加えられないという事情もある。ですから、この業界で多くのお客様を獲得していくためには、我々のシステムをベースにするにせよ、やはりユーザーカスタマイズという「開発作業」は必要になるでしょう。しかしながら、実際のところ我々には開発能力がなく、設計とかシステムの運用はできてもソフトウェアの開発ができない。

その点HOUSEIさんはすでに我々との開発「経験」、高い「技術」と、豊富な「リソース」を持っているわけですよ。相手の要求さえしっかり理解できれば、いとも簡単に作れる技術・拠点を持っているわけで。大手紙にしろブロック紙にしろ、紙のコストを減らしたいと考えているのは同じです。組版システムも輸送も印刷もね。ですからHOUSEIさんがそういうお客様とお付き合いする際に我々がお手伝いできることも多いと思うんですね。例えばユーザーカスタマイズのお手伝いをしたり、ユーザー向けにヒアリングやOJTをしたりと。そこでは我々の知見も大いに役立つと思いますし、お互い足りない部分を補完できるような協力体制が敷けると思います。

それを実現するためには、今我々が持っているシステムを一度再構築する必要もあるかと思います。まだクラウド化できていない一部機能をブラッシュアップして、完全なクラウド化を実現させるとか。組版システムはとにかく落ちないこと、早いこと、簡単であることが大事です。HOUSEIさんはそういったことができる会社だと思うし、そのためのご協力であれば、一生懸命させていただきます。

「共通化」を目指すということは、今あるものをみんなで使うということだけではなく、新しい仲間が加わることで新しい見識や課題も見えてきます。それは我々にとっても刺激的なことで、さらにステップアップする上で有意義なチャレンジとなります。仲間が増えたら、その仲間の要望も吸い上げてバージョンアップさせていく。イノベーションはエンドレスです。

我々ソフト会社にとって、それぞれのお客様に独自システムを開発するビジネススタイルはもはや時代遅れとなりました。これはIT業界共通の意見です。大きな契約であろうと、1社のお客様とだけビジネスをしている会社には昔ほど価値がないし、事業にも継続性はありません。逆に1社あたりの売上が低くても、多くのお客様がいれば経営は成り立つし、将来性もあります。その意味で我々IT業界の経営課題と、新聞業界「共通化」への道のりは一致していると思うのです。まだまだ乗り越えるべき課題は多いですが、メディア業界におけるより強力な「エコシステム」の構築を一緒に目指していきましょう。

Author

執筆者

山中俊幸

日刊スポーツPRESS システム担当

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山中俊幸

日刊スポーツPRESS システム担当

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