変化する出版業界と、VUCA時代に必要な「チャレンジ精神」
管:この度は「TOP対談」にご協力いただきありがとうございます。弊社は新聞など組版システムの基盤構築に長年携わってきましたが、御社は出版業界をけん引される立場でいらっしゃいますね。昨今の出版業界の動向についてお教えいただけますか。
藤澤:「出版」の定義が大きく変わる変革の時が来ていると捉えています。出版の起源を辿れば、古代文明では文字を書き複製することを指し、その後は、近代における印刷機の始まりともいわれるグーテンベルグの活版印刷の発明以降、継続して紙を主とする文化を担ってきました。しかしこの20年余、紙に文字を印刷するという従来の概念のほかに、軸となるコンテンツをベースに、多様な形で消費者の手元に届けるという新たな定義が生まれました。つまり、「出版」はライセンスそのものとしての意味を持つようになったのです。
管:紙から電子への動きの中で、「出版」の変化はまさにその渦中にありますね。本だけでなく、形を変えた価値提供をすれば、当然販路も多様化しますね。変化の激しい時代ですから、今後もさらにその動きが加速されると予想します。どのように変化を捉え、都度適応されているのでしょうか。
藤澤:仰る通り、コンテンツは「本」のみで、「本屋」で売るものだという概念がない今、コンテンツビジネスの展開では販路も多岐に渡ります。例えば日本の漫画は、コンテンツを汎用化することで、海外市場への参入を実現しましたし、そのマーケットは拡大する一方です。漫画はもともと高いポテンシャルを持っていましたが、出版の変化がその世界的規模の拡大に寄与したと言ってよいでしょう。
今後も変化は続くと思われますが、事象を追うのではなく、変化そのものを前提として柔軟に適応できる設計思想をベースに持つことを念頭に置いています。正直、私たちも変化を読み切ることはできません。以前は、経済や地政学的なものが変化のドライバーだったのに対し、現在はテクノロジーになりました。従来の方法では全く見当がつきませんし、スピードも速いですよね。
管:VUCA時代といわれる現代特有の動向ですよね。歴史的に見てもかつてない速さです。従来の手法だけでなく、変化自体を的確に捉え、新しいやり方に次々と挑戦していく姿勢が問われている気がします。
藤澤:はい、私たちもチャレンジすることが一番重要と考えています。とにかく挑戦し、たとえ失敗してもそれを許容できる仕組みでカバーする。前に進むためにチャレンジした結果であれば、それは尊重されるべきです。社内でも、トラブルなどはもちろん起こりますが、そこから何を学んだかが大切です。頭の中では分かっていても、実際に行動してみないと分からないことの方が圧倒的に多いですよね。
管:弊社でも新しいことへのチャレンジを奨励しています。そのために全社的に研究開発費を取っています。たとえそのチャレンジが失敗したとしても、モノを見る目や経験を得られますし、それから持続創新といった企業文化を築くことができますよね。
藤澤:失敗から何かを学んだ人は、成功の再現性も高くなります。成功だけしてきた人は、本質的な成功起因を捉えきれていない人も少なくありません。成長の土台は、困難や失敗を乗り越えることにあると常日頃感じます。
「本とIT」を起点に、広範囲で新たな価値を創造し続ける
管:今年の1月に、弊社も協力会社として携わらせていただいた出版社システム「CONTEO」の提供を開始されましたね。出版業界はもとより、御社の事業展開は益々の拡大が伺えます。
藤澤:はい。「CONTEO」は、従来の書籍をベースとした出版業界のシステムとは異なり、コンテンツそのものの汎用性を高め、広範囲かつ効率的に展開することができるプラットフォームです。デジタル技術で生産性を提供することは、新しい時代を構築するうえで必要不可欠です。企業理念にも「本とIT」と掲げているのですが、長年の経験で培った技術を有効活用し、医療や教育などの業界にも新たな価値を提供しています。
例えば子どものためのプログラミング教材。2019年にタブレット一体型ロボット「こくり」の提供を開始しました。このロボットは、プログラミングでいろいろな動作を行うことができます。子どもたちは、ロボットを動かして遊びたいという一心で、プログラミングを自主的に学びます。教育業界では、「edutainment(エデュテインメント)」というキーワードがありますが、楽しみながら学べるという新たなエンターテインメントの形式を指します。新しいテクノロジーで、子どもたちにワクワクしてもらいながら学んでほしいという、私たちの思いが詰まったプロダクトです。
管:なるほど。従来の「勉強」というイメージでは、完成された教材を使って机上で黙々と学ぶ姿を想像しますが、仰る教育方法ですと、楽しいという感覚が強いので継続もできそうですよね。出版業界のみならず、多岐に渡る分野において、従来の概念を超えた価値を創造されていると聞いて納得です。このオフィスも、いわゆる「仕事場」のイメージとは異なり、カフェのように快適ですね。2月には東京ライフ・ワーク・バランス認定企業の大賞を受賞されたそうですが、働き方という観点でも工夫されていると聞きました。
藤澤:そうですね、広い意味ではオフィス作りにも考え方は共通するものがあるかもしれません。快適で広々とした仕事環境が良い仕事につながるのであれば、必ずしも従来の会社のような環境でなくても良いと考えています。また、働き方も出社とリモートのハイブリッド勤務を採用し、オフィスのデスクはIoT化するなど、社内のDX推進も活発です。ほかにも色々な取り組みを積極的に行っていますが、そういった点を総合して評価いただいたのだと思います。
管:素晴らしいですね。社内外や業界問わず、まさに新しい時代を創られていると感じました。ベクトルは少し異なりますが、私たちも教育業界向けに「Möbius(メビウス)」という自動採点ツールを提供しています。先生の膨大な採点時間を大幅に削減し、本質的な教育の時間を捻出できるんですよ。実際に導入した学校様からも喜びの声を頂き、プラットフォームで課題解決を実現した良い例として、社でも励みにしています。
ワクワクする気持ちを胸に、未来に、よろこびを
管:今後はどのような事業の展開を考えられていますか。
藤澤:直近では、私たちの得意な領域であるさまざまなビジネスのプラットフォームを創るという点に注力することが目標です。そのほか、エデュテインメントの領域でも、プロダクト提供だけでなく、出版のノウハウを活用したイベントの場の提供も新たに挑戦しはじめました。業態を問わずどんどんトライしていきたいと考えています。
「CONTEO」のような企業向けの大型システムは頻繁にはできませんが、アイディアベースで完成できるプログラムはスモールスタートで始められます。積極的に仕掛けていきたいと考えています。もちろん、システムを受託する際ももっと踏み込んで、提案を行っていきたいですね。
変動性の高い社会において改めて思うのは、誰も予測できない不安定な時代ではありますが、同時に持続的に成長できる時だとも取れます。私たちのスローガンでもある、「未来に、よろこびを。」という思いのもと、多種多様な業界で価値を提供し続け、そこで得た知見を出版領域にも還元していければと考えています。ITに関しては御社とも通有点がありますから、ぜひこれからも一緒にさまざまな可能性を探っていきたいですね。
管:今後のさらなる事業展開が楽しみですね。御社とは長いお付き合いではありますが、さまざまなシステム開発を経て、難局を乗り越えてきました。これからもより強固な協力関係を築いていければと思う所存です。有難うございました。
日販グループホールディングス(旧:日本出版販売株式会社)を母体とし、ITビジネスを展開する事業会社として、1978年に設立。日販グループの事業で培ったノウハウを基に、プロジェクトマネジメント、システムエンジニアリングで蓄積された高度な技術力と実装力を持つ。AIやロボティクス等の新しいテクノロジーを活用し、新たな顧客価値を生み出すソリューションの提案に注力するなど、多種多様な業界において、枠にとらわれない柔軟な発想でサービスを提供し続ける。