20年以上利用してきたシステムを刷新された背景や目的について教えてください。
山崎氏:かつて新聞広告はマス広告の中心的な存在でしたが、現在はデジタル広告やSNSの拡大によってクライアントの情報発信手法やコミュニケーションの在り方そのものが多様化し、新聞広告を取り巻く環境は厳しさを増しています。その中で、読売新聞のビジネス部門では、従来の新聞広告だけに留まらず、統合型マーケティングによるクライアントの課題解決のための提案を積極的に行っています。実際に、ビジネス領域や扱う商品、サービスも年々拡大しており、読売新聞のグループ全体も含めたリソースにより、弊社ならではの価値提供ができる環境を整備しています。

ところが、これまでの基幹システムは1997年に構築されたもので、基本的に新聞広告の申込・掲載管理や請求処理を目的としたシステムであり、新聞広告以外の商品管理に適さないほか、提案段階からの情報や営業活動そのものを管理できる設計になっていませんでした。ビジネス手法が進化しても、それを支えるシステムが追い付いていない、そんな危機感を持っていました。
そこで、ビジネス部門では、2019年に広告・ビジネス領域でのDXの検討を始めました。私たちが営業支援システム(SFA)を活用し、提案段階からの営業案件管理、売上の予実管理、成功事例の可視化と横展開などにより、システムによる営業力強化を目指したのです。
一方、2020年には基幹システムの全面刷新を目的とする全社的なDXプロジェクトが立ち上がりました。そこで、制作局とビジネス部門との協議のもと、先述の営業支援システムと新しい基幹システム(広告ビジネスシステム)との「2階建てシステムによる緊密連携・一体運用」をゴールとする設計・開発を行う計画を定め、2025年春の稼働に向けた長期プロジェクトとして動き出しました。

HOUSEIを選定された理由を教えてください。
若林氏:一番大きかったのは、全国紙特有の広告業務への理解です。新聞社の中でも読売の運用はかなり特殊で、全国紙ならではの商流や売上計上の考え方、三本社三支社(東京・大阪・西部本社、北海道・北陸・中部支社)との連携など、一般的な広告システムとは異なる部分が多くあります。そのあたりを理解した上で提案いただけたのは非常に大きかったですね。また、今回はクラウド基盤上で、将来的な拡張性を考慮したシステム構成をご提案いただきました。新聞広告だけでなく、デジタル広告、新規ビジネスなどにも対応していく必要がある中で、「将来的な変化にも柔軟に対応しやすい構造」を最初から提示いただけたことは魅力的でした。
今回のプロジェクトでは、初期段階からビジネス部門も参加されたそうですね。
若林氏:そうですね。以前のシステム開発では、ある程度システムを作り込んでから、実際に利用するセクションに触ってもらい受入テストを行うケースがほとんどでした。ただ、その進め方だと、実際に使う段階になって初めて「この運用は現場に合わない」「ここは改善したい」といった声が出てきて、結果として手戻りが発生することも少なくありませんでした。
今回はそうした反省も踏まえ、提案依頼書の作成段階からビジネス部門にも参加してもらい、「現状どんな課題があるのか」「今後どんな営業活動をしていきたいのか」という部分から一緒に整理していきました。単なるシステム更新ではなく、これからの広告ビジネスをどう支えるかという視点が必要だったため、現場の考えを最初から取り込めたことは非常に大きかったと思っています。弊社としても、新聞制作系システムとしては新しいプロジェクト推進の形でしたね。
プロジェクトを進める中で、不安や苦労された点はありましたか。
山崎氏:ビジネス部門のメンバーは、システム構築は本来の業務とはまったく異なり、初めての経験でしたので、本当に不安と苦労の連続でした(笑)。特に難しかったのが、営業支援システムとの緊密連携です。私たちは、“システムによる営業力強化”を掲げており、「営業活動を提案段階から可視化したい」「提案状況を一元管理したい」といった要望を持っていました。一方で、システムには既存仕様や制約もある。その中で、どのように要望を実装できるのかについて、本当に多くの時間をかけ、議論を重ねました。
また、新システムは、三本社三支社のビジネス部門担当者はもちろんのこと、外部の広告会社や制作会社も使用するシステムのため、それぞれのニーズをくみ取って要件としてまとめ、システムを構築し、実装前に運用テストで確認する、といったことを抜け漏れなく行い、かつスケジュール遅延が無いようにプロジェクト全体を動かしていくというのは困難の連続でした。そのため、基本設計から運用テスト、導入の期間は各部署に“伝道師”役を置き、新システムの普及啓発、意見集約などを担ってもらいました。伝道師役の負担は大きかったですが、DXの意義を丁寧に伝えて前向きに協力してもらうことで、なんとか乗り切ることができました。
若林氏:技術面でも、クラウド基盤を大規模に使うのは初めてでしたし、営業支援システムや経理システムとの連携も大きなテーマでした。以前はシステムごとの二重入力も発生していましたが、今回は営業支援側で入力した情報が、そのまま広告ビジネスシステムや経理システムまで流れる構成を目指しました。その分、システム間連携の設計や調整はかなり複雑になりましたが、HOUSEIさんには技術面だけでなく、他ベンダーとの連携に関するコミュニケーション部分でも丁寧にサポートいただきました。

白熱した議論もあったそうですね。
山崎氏:ありましたね(笑)。ビジネス部門の業務領域は多岐にわたるため、最初に業務フローをしっかりと整理したつもりでも、開発が進む中で「実はこういう運用もあった」ということが後から見つかる場面もありました。ただ、開発が進んだ段階で仕様変更をお願いすると、当然スケジュールやコストにも影響が出ます。そこはビジネス部門、制作局、HOUSEIさんを交えて、かなり本気で議論しました。でも印象的だったのは、「できません」で終わるのではなく、「どうすればビジネス部門がやりたいことを実現できるのか」を常に一緒に考えていただけたことです。ベースに信頼関係があったからこそ、厳しい議論も前向きに進められたのだと思っています。
新システム導入後、どのような変化がありましたか。
山崎氏:2025年3月の稼働直後からしばらくの間は、移行データによる想定外の影響や、システム間連携の調整、運用面でのさまざまな対応などに追われる場面が少なからずありました。ただ、2025年度下半期頃から徐々に安定運用が進み、現在は定着しています。現場側も新しい運用に慣れてきたことで、システムを前提とした業務改善や活用推進のフェーズに入ってきた印象があります。
特に大きな変化は、営業活動を提案段階から組織的に把握し可視化できるようになったことです。以前は提案初期の情報は各部署や担当者で留まっているケースも多く、部門全体で把握することが難しかったのですが、現在は、提案から受注、売上まで一連の流れを組織としてシステム上で管理できるようになっています。その結果、提案数や受注確度、予算進捗などをもとに、部門の幹部や管理職が状況を把握しながら営業戦略を立てられるようになりました。「今どの案件をフォローすべきか」「予算到達のための案件提案は足りているか」などを、感覚的にではなくシステム登録状況をもとに可視化して把握できるようになったのは非常に大きいですね。従来の広告管理システムという枠を超えて、広範なビジネス全体を支え、営業力強化に資する基盤システムになっていると感じています。
若林氏:システム面では、クラウド化によって柔軟なリソース調整ができるようになったことが大きな変化です。従来のオンプレミス環境では、急な負荷増加への対応にも物理的な制約があり、対応する場合には時間やコストがかかっていましたが、現在は状況に応じて柔軟にリソースを調整できるようになっています。選挙時期など、一時的にアクセス負荷が高まるタイミングにも対応しやすくなりました。また、サーバーレスやコンテナ技術を活用したことで、運用保守にかかる人的コストも大きく改善されています。一方で、クラウド利用料をどのように抑えながら効率的に運用していくかという新たな課題も見えてきました。たとえば、利用状況に応じたサーバー構成の見直しや、不要なリソースの整理など、コストと運用効率のバランスを最適化する取り組みが必要です。

今後、このシステムをどのように発展させていきたいですか。
山崎氏:今回の全面刷新は、これからのビジネスをどう支えるかという視点で進めてきたプロジェクトでした。そのため、システムを導入して終わりではなく、ここからどう活用を深めていくかがより重要だと考えています。現在は、提案管理や売上管理の可視化を進めながら、営業活動の状況をより正確に把握できるようになってきています。今後は、営業現場にとって単なる情報入力のためのシステムではなく、「営業を強化し、かつ業務効率化にも寄与する仕組み」としてさらに定着させていきたいですね。今回のシステムは、ビジネス環境の変化に柔軟に対応できる基盤として構築していただいたので、時代に合わせながら継続的に進化させていきたいと思っています。
若林氏:技術面では、先ほどもお話ししたとおり安定運用とコスト最適化が大きなテーマです。柔軟に運用できる代わりに、クラウドならではの新たな課題が出てくるかと思います。また、現在は広告システムだけでなく他システムでもクラウド活用が進んでいます。今後は個別最適ではなく、全社視点でインフラ全体をどう最適化していくかも重要になると思っています。今回のプロジェクトで得た知見は、広告システムだけにとどまらず、今後の社内でのDX推進にも活かしていけると感じています。
最後に、HOUSEIへの印象をお聞かせください。
山崎氏:新聞社には最後までより良いものを作ろうという文化が根付いています。今回のシステム構築に当たり、細かな部分までかなり議論しましたが、HOUSEIさんが私たちに負けない熱量と新聞社ビジネス部門への深い業務理解を持ってプロジェクトに向き合う姿勢を見て、大変心強いと感じていました。
若林氏:業務背景や新聞社特有の事情まで深く理解しようとしてくださり、柔軟に対応いただけたと感じています。プロジェクトが進むにつれ、単なる発注側と受注側ではなく、同じ方向を向いてシステムを作っている感覚が強くなっていきました。現在は安定運用フェーズに入っていますが、このシステムは導入して終わりではなく、これからさらに改善を重ねながら育てていくものだと思っています。今後も保守や追加開発を含め、一緒に取り組んでいきたいですね。





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